カエデ自動機械

ちょっとしたものづくりや電子工作のメモなど。技術開発とは今は呼べないかな。

自律ローバーを作る(2)-車体構造の検討

前回、自律ローバーが作りたくなったと突然言い出して具体的にどのような機能・性能が必要なのかを列挙したところでした。

このうちベースの車体となる部分の構成を考えていこうと思います。

求められる仕様

簡単に言えば、前回屋外用途で求められる仕様と屋内用途で求められる仕様を整理しましたが、その最小公倍数的な仕様にします。
最小公倍数にした結果、もともとの要求に収まらなければ、その時はその時です。収まらなかったという事故を防ぎたければ、最初からもう少し詳しく検討します。

さて、もう一度よくよく思考展開図を見返してみると、ベースの車体そのものに求められる要件はそう多くありません。
サスペンション機構をどうするかというのと、頑丈に作るという事でしょうか。あとはどちらかというと搭載物やソフトウェアの問題か、車体が組みあがってから、アタッチメント的に取り付けるべきもの(雨・紫外線対策のカバーとか)です。

その数少ない要件をリストアップしてみると、

  • 野外向け
    • つくチャレとか出たいなら、そのレギュレーションに合うサイズ
    • なるべくホイールベーストレッド幅を大きく
    • 最高速度は4km/h程度(野外でもノロノロ感が無く、かつ緊急時は人が容易に追い付いたり逃げたりできる速度)
    • サスペンション・路面振動防止機構
    • 運びやすい、分解しやすい
  • 屋内向け
    • ルンバサイズの車体
    • なるべく車輪が車体からはみ出さない(ホイールベーストレッド幅を小さく)
    • 最高速度は高々1km/h程度
    • ペイロードは電装系、センサ類、バッテリに加えて+2kg程度

あたりでしょうか。
これらについて、個別に検討していきます。


車体サイズ

野外向けでは実質制限は無いに等しい(本当は大きい方が色々と楽ですが)ので、検討の余地もありません。ルンバサイズです。ルンバの直径はモデルによって異なるかもしれませんが、大体Φ350mmです。
アイロボット公式サイト | iRobot


高さは100mm程度ですが、ここは気にしません。自作のローバーにも掃除はさせてみたいですが、少なくともルンバと同じ役目は求めません。

作りやすさも考えるといきなり円形のフレームは難しいので、おそらくベース形状は正方形にして、適宜外装部品で丸く仕上げる形になろうかと思います。
Φ350mmの円に内接する正方形は大体247mmですので、大体一辺250mm程度の正方形の車体を目指します。


車体の高さは、搭載品のセンサやPCが載れば何でもいいですし、転倒の危険を考えると低い方が良い気もします。

一方で、

  • センサの遠方見通し、他者からの視認性
  • つくチャレのレギュレーション(全高0.6m以上)
  • 室内で立ち仕事のサポートや人と対話をする場合のアクセス性

を考えると、闇雲に低くしても良いことは無いと思われるため、注意が必要です。
とはいえ今から気にしても仕方ないですし、背を高くするだけなら難しいこともありませんから、唯一の定量的制限である0.6m以上をクリアできるよう部材は用意しつつ、基本は成り行きに任せようと思います。


車体の重さですが、屋内でも使用することを考えると軽いほうが望ましいと考えられます。
一方で小さな動物を飼っているとか小さな子供がいるというわけでもありませんので、それほど気にすることもありません。米袋がゆっくり迫ってきても無事で済む気がする、というよくわからない理由で、とりあえず10kgを目標総重量に設定したいと思います。


車体サイズ:250mm角の正方形を基本にする。車体総重量は10kgを目標と仮置き。


使用する部材

分解しやすく、組み立てやすく、頑丈、カスタマイズもしやすく、安い・・・となると、やはりアルミフレーム一択でしょうか。
外観を格好良く仕上げるのが難しい気がしてなりませんが、そこまで手が回らない気もしますし、そもそもモノコック構造にでもしない限り、必ず似たような部材を使うことになりますので気にしません。

強度が要ると言っても高々10kg程度ですから、20mm角のアルミフレームを使います。組み合わせ方にもよりますが、今回はコーナー用のブラケットを用いますので、1辺長さ×2の40mmを差し引いて、1本あたり210mmの長さがあればよい計算です。
ミスミのアルミフレームが有名ですが、私は何かの機会で利用したことがあるこのサイトを使います。ミスミは事業者向けだと思っていたのですが、個人でも買えるのかな?
NIC Direct エヌアイシ ダイレクト

基本部材:210mmのアルミユニバーサルフレームを使う



モータ、車輪の選定

車体サイズとは逆で、野外用途の方が最高速度、所要パワーとも高いと考えられますので、こちらに合わせて設計していきます。
といっても、今回はセンサ系にお金を費やすことになりそうなので、基本は倒立振子ロボットver2で用いたモータ、車輪を流用します。

317 RPM Spur Gear Motor w/Encoder
【楽天市場】AndyMark 6" HiGrip ゴム製ホイール:ロボショップ 楽天市場店


当時の設計の記事にて、

  • モータ最大トルク 510 oz・in ≒ 3.6 N・m
  • 車体重量10kg(4輪装備、2輪駆動なためモータ1つあたり2.5kg)

としてみると、例えば0.05mの高さの段差であっても、必要な最大モータトルクは高々2N・mであり、使用予定のモータの最大トルクに比べるとかなり余裕のある値となっています。
全輪駆動であれば、車体重心等によっては車輪半径以上の段差も転倒せずに乗り越えられると思いますが、その場合も、段差に接している車輪が発するべきトルクは同じ値(車輪で引っ掻いて車体を持ち上げられるだけのトルク)ですので、トルク的には問題ないかと思います。

実際にどの程度の段差を乗り越えられるかは、車体形状や重心高さに依存しますので、その際に改めて検討します。

モータ、車輪:倒立振子ロボットver2と同じ、6インチホイールとservocityのエンコーダ付ギヤードモータを使う。



消費電力見積もり

ここで考えるべきかはわかりませんが、消費電力から搭載すべきバッテリ容量を見積もろうと思います。


まずモータですが、無負荷時電流0.5A@12V とメーカサイトにあります。転がり摩擦抵抗は決して大きなものではありませんが、それなりの車体重量で、坂道も登ると考えられますから、倍程度と見積もろうと思います。
モータは左右車輪で2個搭載予定ですので、合計24W、2時間使用すれば48Wh必要な計算です。


搭載する計算機ですが、予算的に購入可能かどうかは別として、Jetson Xavier開発キットを想定しようと思います。
カタログスペックから、30Wの消費電力とありますので、2時間使用する場合は60Wh必要という計算になります。
購入できなければ、当分はグラボ非搭載の中古ノートPCを使います。その場合、バッテリがあるため消費電力はゼロです。


あとはセンサ・回路での消費電力やロス分となりますが、今回は大型のLiDAR等を載せるつもりも無いですし、せいぜい20Wh程度を見込んでおけばいいでしょう。


フルスペックでロボットを動かしたい場合は128Wh、余裕を見ると150Whのバッテリを搭載する必要があります。相当大きいですね。
ラジコン用のLiPOバッテリは大体100Wh/kgですから、1.5kgのバッテリを搭載する必要があることになります。安全性を優先して鉛蓄電池やルンバでも使われているニッケル水素電池を使う場合は、バッテリだけで5kgくらいになってしまうかもしれません。

当面の間は1時間動けばいい、等、どこかで妥協はすると思いますが、一応バッテリは1.5kg搭載するつもりで頭に置いておこうと思います。


サスペンション機構、路面振動抑制機能の検討

これは結構難しいと思っています。
サスペンションは構造的に動く部分で、回転か、直動か、どちらかに動かせるように車輪軸とは別に可動部を用意する必要があります。ただでさえ車輪周りというモータやら何やらが集まっている場所なのに、何らかのばね構造とフリージョイントを仕込むとなると、機構がかなり複雑になる気がします。

一応、汎用ガススプリングをサスペンションに使っている事例は何度か見たことがありますし、モータと同じくservocityの製品でロボット用のサスペンションユニットが売っているのを見つけたりもしたのですが・・・
www.servocity.com
これだって、サスペンション機能自体は担保されていても、それを確実に車体側と車輪側に固定しつつサスペンション機構としての摺動部の円滑性を担保するのは決して簡単ではありません。
それから、変な実装をしてしまって、サスペンションのストロークによりホイール位置が変わると、ホイールオドメトリの計算に支障をきたします。

いろいろ書きましたが、今回は簡易的な手段として、モータと車体の接続部に防振ゴムのようなものを挟んだ、簡易的な設計にしようとおもいます。
モータ⇔車体の接続を機械的に疎にすることで、簡易的な摺動機構を設け、防振ゴムの伸び縮みで振動を吸収する作戦です。
機械にサスペンション機構を仕込むのをチャレンジすること自体が初めてなので、どういう結果になるか楽しみです。

サスペンション機構:防振ゴムを使った簡易な実装にする


まとめ

CADで部品配置を考え始める前に検討すべきはこんなところでしょうか。

まとめると、

  • 幅250mm × 長さ250mm、高さ任意のアルミフレーム製車体
  • 倒立振子ロボットver2と同じホイール、モータ、最低1.5kg分(LiPO使用の場合)のバッテリ
  • 防振ゴムを用いた簡易サスペンション機構

ということになります。車体重量、転倒しやすさ等については、一度仮組してみないとわかりませんので、後日差検討という形にしたいと思います。

ペイロードについても、今回は検討から省きました。
アルミフレームを使っている時点でベース構造としては問題ないこと、車体とモータの選定状況から、動力についても余裕があることから、概ね問題なしだろうと考えています。

少し気にしているのは、ホイールマウント、モータマウント等を3Dプリンタ製にしようと思っているため、その部分の強度に気を付ける必要があると思っています。
次回は実際にCAD上でそれっぽく部品をモデリングして、全体像を確認してみたいと思います。


記事サムネ用に写真が無いと寂しいので、検討に使ったノートの写真でも。これはヤラセ写真で、実際はもっと汚いです。

f:id:ktd-prototype:20200224213555j:plain
参考に、検討に使ったノート。画面外左側には過去に書いた記事での段差乗り越えの計算が全くの誤りであることに苦しんだ形跡がある。


ktd-prototype.hatenablog.com