カエデ自動機械

ちょっとしたものづくりや電子工作のメモなど。技術開発とは今は呼べないかな。

倒立振子ロボットを作る(3)-車体設計(車輪とモータ)

台車の車輪とモータに求められる性能の考え方

前回倒立振子型台車の姿勢制御系をつくり、台車の傾き角度が出力できるようになりました。
今回は、前々回倒立振子型台車の設計のための思考展開図で得られた2番めの機構要素である「大径タイヤとハイパワーモータ」が具体的にはどの程度のものである必要があるのか考えていきます。
車体の専門家に見られると怒られるような内容かも知れませんが、恐れても仕方ないので色々書きたいことを書いていきます。

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倒立振子型台車の設計のための思考展開図(再掲)

「走破性」という概念について

見出しを書いておいてなんですが、僕も車両の専門家ではないので細かいところまではわかりません。
走破性というのはSUV軍用車両の性能を語る時なんかに使う言葉で、要は悪路を走る能力がどの程度高いかという指標です。
実際にはおそらくそんなに単純な性能指標ではなく、おそらくこんな要素がありそうです。

  • 車体形状の問題
    • 車体の底を擦らないか(最低地上高)
    • 車体の鼻先を擦らないか(アプローチアングル)
    • 車体のお尻を擦らないか(デパーチャーアングル)
  • 動力系の問題
    • 段差に乗り上げられるか(車輪直径)
    • 段差に乗り上げる力はあるか(エンジンやモータのトルク)
    • 車体が跳ねず、車輪が地面を掴めるか(サスペンション)
  • 制御の問題
    • いきなり車輪を最高速度で回すと滑りそうなので、滑らない程度に徐々にトルクを伝達する(トルク伝達の制御)
    • 浮いている車輪を回しても意味ないので、接地している車輪に優先的にトルクを配分する(トルク配分の制御)
  • それ以外の問題
    • 砂や泥で滑ってスタックしないか(タイヤグリップ)
    • (上と関連)砂や泥を掘ってしまってスタックしないか(タイヤ接地圧)

考えただけでも気が遠くなりそうです。複雑過ぎてもやりきれる気がしません。サスペンションなんて作れないし。
ここは一番簡単で、パーツ選定に影響する車輪直径とモータトルクに着目して考えてみて、残りはあまり深く考えずに仮ぎめして、極端に問題があるなら修正する・・・という形を取ろうと思います。

どの程度の段差を乗り越えたいか

思考展開図でいうところの「要求機能」がまた出てきますが、
別に絶対乗り越えなきゃいけない段差なんてありませんので適当に決めます。
僕が自宅の居間で使っているローソファの座面高さが5cmありますので、これの乗り越えを目標にします。
乗り越えたい段差の高さ:5cm


段差乗り越えのための車輪径

直感ですが、とにかくトルクが無限にあるなら、車輪が大きい方が有利な気がします。
そして、動力につながった車輪(動輪)は、地面との設置点に置いて車輪の円周方向に地面をひっかくことで前に進んでいきそうです。

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車輪で前に進むイメージ



段差でも基本は同じだと思いますが、前に進む力は、車輪と地面が接している点における、車輪の接線方向に働きそうです。

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段差で車輪が前に進もうとするイメージ


この図をじっと見てみると、段差の高さが車輪の半径より大きいと、車体を動かす力が垂直上向きになってしまいます。
前向きの力が無いので、車体は永遠に前に進むことはなさそうです(よじ登って・・・みたいのを除けば)
逆に言えば、車輪半径は段差高さより高くなければならないことがわかります。
想定段差高さが5cmなので、
車輪の半径は5cm以上(直径10cm以上)
が要件となります。



段差乗り越えのためのモータトルク(2020年3月1日修正)

一度誤りを見つけたことでこの計算自体が合っているか否か、すっかり自信を無くしてしまいましたが、
これについては2通りの考え方というか、必要な最大トルクだけわかれば良いのであれば1通りでいいのですが、折角なので両方紹介します。

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段差乗り越え前後の平均を元にした考え方

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(訂正後)最も大きなトルクが必要になる瞬間(=車輪が地面から離れる瞬間)を元にした考え方

それぞれの「車体を動かす力」に半径をかければ必要なモータトルクになるのですが、
両者、N1とN2(の最小値)を比べると、当然かもしれませんがN2の方が大きくなります。

前者は、擬似的に段差を斜面として平均化して取り扱った場合、その斜面を登るのに必要なトルクを求めています。
後者は、乗り越えを始める瞬間、車体を地面から持ち上げる瞬間に必要な最大トルクを求めています。


面倒なので後者のみで、

  • m : 2 kg(車輪2つあるので、車体(4kg想定)の半分)
  • g : 10 m/s2
  • h : 5 cm
  • r : 7.5 cm

と、念の為車体重量なんかを大きめに見積もって計算すると、
必要なモータの最大トルク : N2 = 1.39 N・m
となります。

ちなみに前者は、段差乗り越えが完了するまでに必要な平均トルクとして、0.85 N・mが必要という結論になります。


必要な性能を満たすパーツの選定

計算の段階で特に悩まず車輪半径とかが決まったのは、実は想定するパーツが既にあったからなのですが、以下を使っていきます。

kondo-robot.com

item.rakuten.co.jp


定格トルク4 N・mと計算値に対して余裕があり、自分で動かし方もよくわかっている近藤科学サーボモータと、
直径6インチ = 約15 cmで頑丈そうなホイールを選定しました。


まとめ

車体の基本的な動力や車輪の部分の必要性能を明らかにしてみました。
これらを接続するためのブラケットなんかは3Dプリンタか何かで作るとして、
次回は実際にこれらを組み立ててみようと思います。
ktd-prototype.hatenablog.com



記事修正前の計算とその修正、考察等

実は当初、必要トルクN2を求めるのに以下の図を使って説明していましたが、おそらく誤りです。幸か不幸か参考にされた方はあまりおられないと思いますが(ブログのPV数的に)、とにかく申し訳ありませんでした。

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(訂正前)最も大きなトルクが必要になる瞬間(=車輪が地面から離れる瞬間)を元にした考え方

この計算でも、N2 の値が多分1.5N・mくらいになるはずで、一瞬妥当に思えてしまったため気づかなかったのですが、この計算だと段差高さが大きくなればなるほど必要なトルクが少なくて済むという、明らかに矛盾した結果になるんですね。
多分ですが、以下のような計算にすれば同じ値になるようです・・・

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(訂正後)最も大きなトルクが必要になる瞬間(=車輪が地面から離れる瞬間)を元にした考え方

ただ、右上に伸びる垂直抗力を何らかの形で生み出す必要があり、タイヤのグリップ力が十分あれば問題ないのかどうか、まだ直感的には理解できていません。もしかしたら、根本的に何か間違えているかも??

4輪車で、後輪にも駆動力があれば、前輪を段鼻に押し付ける力が働きますから、間違いなく問題ない気がしますが。。。前輪駆動、もしくは車輪型倒立振子ロボットのような場合だと、勢いで乗り越えるか、車輪と段鼻がうまくグリップしなければ、たとえトルクが足りても乗り越えに失敗することはあるかもしれません。
車輪が地面から浮いた瞬間、段差への車輪押し付け力が大きく落ちますので、そこで摩擦も落ちて、それ以上車体を持ち上げられなくなる、ということですね。