カエデ自動機械

ちょっとしたものづくりや電子工作のメモなど。技術開発とは今は呼べないかな。

3Dプリンタ用のフィラメント防湿・乾燥ボックスを自作してみる

先日購入したFLASHFORGE社のAdventurer3Xですが、大変調子良く使えています。

多くのフィラメントが、極力湿気を避けて保存することが推奨されていますので、そのための防湿・乾燥ボックスの自作模様を紹介します。

なぜ防湿・乾燥ボックスなのか

Adventurer3Xはコンパクトな筐体ながら、フィラメントスプール(フィラメントを巻いてあるリール)も筐体の中に内装できるのが強みだと思います。
私自身、そのコンパクトさに惹かれて買いましたし、使い始めてからもその利便性に感激しました。一方で500g入りの小型スプールしか使えないのもまた事実・・・他のサイズのフィラメントを使いたい場合は、専用のフィラメントスタンドを用意する必要があります。

また、有名なのはナイロン系のフィラメントですが、それ以外にも多くの素材が極力湿気を避けて保存することを推奨されており、その点についてはAdventurer3の筐体では密閉性に欠けるのではないかと危惧しました。

Polymaker社からフィラメントの乾燥を維持するための収納ケース(乾燥剤は自前で用意する?)があるのですが、Adventurer3Xを購入したばかり、そしてこれを用いて色々なロボットを作るために様々な資材を調達する必要がある私にとって14,000円というのは少々高額です。
www.poly-maker.jp

そこで、フィラメントスタンドも兼ねて、フィラメントの乾燥状態を維持できるボックスを自作してやろうと思った次第です。
ナイロン系フィラメント以外で防湿ボックスを明示的に求めている例というのはあまり聞かず、本当にどの程度効果があるのかはちょっと疑問ですが・・・せっかくなのでやってみようと思います。

材料の調達

材料は以下のとおりです。カッコ内は僕が実際に採用した商品名。

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使用した材料(スタンド以外)

タッパーは、使いたいフィラメントが余裕を持って入るサイズであれば問題ないのではと思います。僕はFLASHFORGE社純正フィラメントとPolymaker社のフィラメントの使用を想定しました。その場合、スプール外径は高々200mmですので、高さ、奥行きが240mmずつくらいある上記製品であれば上出来かなと言った感じです。

テフロンチューブは、Φ1.75mmのフィラメントがチューブの中を通るとして、内径2~3mm程度が必要と思われます。ヨドバシでも買えますが、10mとか届いてしまっても困る(おそらく1mも使わない)ので、今回はm単位で購入が可能な上記サイトから購入しました。
内径はわからなかったのでI.D.Φ2mm、I.D.Φ3mmを買って実際に試してみましたが、Φ2mmだと流石にシビアすぎるというか、管が曲がる部分で抵抗が強いようでしたので、Φ3mmを使いました(写真はI.D.2mmですが・・・)。

乾燥材は何でも良いでしょう。電子レンジで温めたりフライパンで煎ったりして吸湿力が復活するものの方が、ゴミが少なくていい気はします。

タッパーの中でフィラメントを立てておく台は3Dプリンタで造形します。Adventurer3Xを購入した際にグレーのPLAが500gついてきましたので、こちらを使いました。

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台の造形の様子。メインがスタンドで、中央に配置された半円柱はスプール用の軸。

スプールの軸は、それほど滑らかに回る必要は無いように思われたので、R14の半円柱を、内径Φ55(R27.5)のスプールに通し、半円柱の円弧側とスプール内径を接する形にしています。半円形にしたのは、円柱より造形しやすく、軸受けを用意しなくても台から転がり落ちないからです。

円柱の軸方向と3Dプリンタの積層方向を一致させれば円筒の造形は簡単ですが、ラジアル荷重に弱くなってしまいますので。。。それを避けようと横倒しに印刷すると、サポートが必要となり綺麗な印刷が難しくなります。

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フィラメントホルダ(タッパーは除く)の完成予想図。黒いのがフィラメント。

土台が固定されていれば多少抵抗はありますがスプールが回りますので、フィラメント送り機構によりフィラメントを引っ張ってくれる3Dプリンタ用途であればこれで問題ないのではと思います。
もちろん、厳密に作りたければ円筒の軸とベアリングを入れるべきですが・・・


組み立て

フィラメント台を仮組します。

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台の仮組み。軸と固定はしないため、脱落しないよう軸の両端に輪ゴムを巻く。

フィラメントスプールを搭載するとこんな感じになります。フィラメントをケチって板厚3mmで作った上に肉抜きまでしているので、剛性感は皆無ですが、フィラメントを引き出される方向にしか力はかかりませんので、おそらく大丈夫ではないかという判断です。

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フィラメントをセットした様子


タッパーの中にあるフィラメントは、タッパーの側面に穴を空けてそこから引き出すようにします。
3Dプリンタ側のフィラメントフィーダーまで数10cmあり、この部分もできれば防湿を維持したいので、タッパー側面の穴にはPTFEチューブを通し、その中をフィラメントが通るようにしていきます。
この穴あけが一番苦労したかも知れません。プラモデル用のピンバイスでΦ1.5mmの穴を空け、それをニッパーで抉ったりヤスリで磨いたりして穴を広げました。

チューブを通して、スタンドもつけると下の写真のような外観になります。スタンドがタッパーの中で動いてしまうと具合が悪いですが、かといってそれほど力がかかるとも思えなかったので養生テープで留める程度にしています。

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チューブをタッパーに通し、スタンドも取り付けた状態


3Dプリンタへの設置

設置と言っても大したことはしませんが、タッパーを3Dプリンタの脇に置き、フィラメントをチューブに通して、3Dプリンタ側のフィーダーまで伸ばします。

  1. スプールから一度フィラメントを引き出す
  2. フィラメントをタッパーの内側から、チューブを通して引き出す
  3. 余分なフィラメントを巻き直しながらスプールにスプール軸を通してタッパー内のスタンドに設置する
  4. 2で引き出したフィラメントとチューブを3Dプリンタ側のフィラメントフィーダーに寄せ、フィラメントをロードする
  5. 除湿剤(靴用でも、衣類用でもなんでもよい)をタッパーに放り込む。お好みで湿度計も入れて蓋をする
  6. 完成!

という少しだけ煩雑な操作ですが、淡々とこなします。

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設置した様子
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3Dプリンタへのフィラメント供給

動作テストをする

とりあえず、Adventurer3Xに附属していたフィラメントを使って動作テストをしました。
動画はあまりに地味なのであまり観る意味が無い、見ない方が良い気さえ致しますが、とりあえず、スプールの回転があまりスムーズではないものの一応問題なく動いているな、という感じです。
Adventurer3Xの内部ストレージに記録されていた20*20*10mmの直方体の造形には2連続で成功しました。


3Dプリンタのフィラメント防湿ボックス稼働状況



今回使ったフィラメントは既に残量が200g程度と少なくなっており、新品の重いフィラメントを使った場合どうなるかは別途試してみる必要があります。
第2段階テストとして新品のPETGフィラメント(750g)を使ってみたところ、少々スプールの回転のがたつきが大きかったような気がしましたので、軸の部分をヤスリで磨いて、せめて積層痕くらいは消すべきだろうかと思い悩んでいるところです。


肝心の防湿性能ですが、100円ショップの温湿度計で計測してみると、当初35%前後を差していた湿度は、一晩放置してみると20%を差して一応安定しています。冬場ですので劇的にフィラメント保管状況が改善されるわけではないと思いますが、一応の効果はあるようです。

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フィラメント内に設置した温湿度計の読み(下段)は少々見づらいが20%を差している。なお、安物なせいか、低湿度領域では±7%程度の誤差を生じるとのこと。



かかったコスト・反省点

かかった費用は

  • タッパー:1000円
  • PTFEチューブ:1500円(実際に使ったのは100円分くらいですが・・・予備とサイズ検討含め、2サイズを2mずつ買ったため)
  • 乾燥剤:200円
  • フィラメントスタンド用の造形費用:500円くらい?

と合計3000円強でフィラメントボックスを自作することができ、11000円の現金を節約できました。


一方で、

  • Polymaker社のPolyBOXと実使用に基づく比較をしたわけでないので、本当に同等の性能が出ているか不明瞭
  • 構想を練って試行錯誤する段階も含めると2日間くらい費やしている

というのが反省点ですね。
サラリーマンが休日にモノづくりをするとなったら、2日間の休日というのは11000円を投じてでも欲しいものですから、この自作はコスパという観点では失敗だったのではとも思っています。
もちろん、11000円の節約をしたい時期もありますし(3Dプリンタを導入した直後は特に!)、何よりも、試しに作ってみたかったので、まあ良いかなと思っています。


それから後日談として、カメラ用品の保管?等に使用する防湿ボックスというものが売っていることを知りました。リサーチ不足でした・・・
www.monotaro.com

プレビュー形式のリンクが上手く貼れないのでリンクはモノタロウですが、個人でもヨドバシ通販等で購入可能です。
湿度計もセットで、価格もタッパーとほとんど変わりませんので、サイズが合えばこちらの方が遥かに適していると思います。